豆子とフェロモンと。

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「……逃げんな、コラ」 む、無理です……。  グッと顔に力を入れると今度降ってきたのは冷ややかな含みを持った舌打ち。 涙目で見返すと、綺麗な琥珀色の瞳。 その上にある眉は寄せられていて。 「……カット」 静かにそう呟くと、不意に体が解放された。 支えがなくなって床にぺたりと座り込む私。 手に持っていた台本もばさりと音をたてて落ちた。 「ったくいい加減慣れろって。 ちっとも先のシーンに進めねぇじゃん」 「無理ですよー……。 先輩、近すぎ……」 真っ赤になった頬をおさえて、腕組みをして立つ先輩を見る。 先輩は私の視線に気付くと体をかがめて手に持っていた台本を丸めて私の頭を軽くぽこん、と叩いた。 そこにさっきの甘い雰囲気は微塵もない。
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