豆子とフェロモンと。

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「豆子さ、わかる? ここ、一番大事なシーンなんだよ。 妥協したくねぇの」 「わかってます……。 でも、あの……、 せめてもうちょっと顔、遠ざけてくれませんか?」 「……だって。 そこんとこどうなの、大翔ー」 先輩は振り返り、後ろで同じように台本を手に見ていた細いフレームのメガネをかけていた坂上先輩に話しかける。 坂上先輩は表情は崩さないまま顎に手を添えた。 「……変更ナシ、だろ? 俺に聞かないでもらえるかな」 「えぇえ……せめてあと5センチだけでもいいんです……」 「なぁ、豆子。 そんなに俺の顔直視に耐えねぇ?」 首を少し傾げて覗き込んでくる先輩。 たれ目だけど意志の強そうな目に小さめだけど筋の通った鼻、弾力のありそうな口元にはホクロ。 どれもが絶妙な配置で並んでいて。 下級生からフェロモン先輩なんてあだ名が付いてるのを知らないのか、この人は。
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