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時刻は明け方の四時頃。空はまだ暗く、雪が降っていた。
街には街灯だけが付いており、誰の気配もない。
地面に積もった雪を踏み付けるように歩きながらタバコを吸う男――充が1ビルの壁に寄りかかる。
「はぁー……今日はいつもより寒いな……」
充は地面に置いていたエレキギターのケースを背負い、ボストンバッグを持ち上げて歩き始める。
「俺の選んだ道だし、なんとも言えねぇが……よく人を手に掛けといてのうのうと生きてられるよな……。」
“仕事”を終えた後、タバコを吸いながら愚痴を吐くというのが習慣になっていた。
開店時間まで少し仮眠を取るか……。朝飯はどうしたもんか。と瞼を閉じる。
「寒いし、シチューでも――ん?」
全身で感じる違和感。空気が、明かりが、温度が、地面の感覚が数歩前と違う。
五感が訴える違和感に、充は瞼を開ける。
「なんじゃこりゃ……」
そこは街灯もなく、ビル街もなく、アスファルトもない竹林に立っていた。辛うじて有る明かりは冷たく光る三日月と星空だけ。
「星空なんて……もう何年も見てなかったな……」
見上げた夜空に思わず感嘆する。
「お気に召してくれたかしら?」
「あぁ、なかなかいい風景じゃないか」
コートに仕込んでいる銃に手を掛ける。が―――
(……ない、だと……?さっきまであったはずじゃあ―――)
「―――そう、さっきまで確かにそこにとあったわ。少し危なっかしいから私が没収したの♪」
地面から、傘をさした一人の女性が文字通り生えてくる。
「初めまして、私は八雲紫。あなたをここへ連れてきた張本人よ」
「俺を連れてきた……?拉致の間違いだろ。俺の愛銃くすねた方法で拉致ったのか?とりあえず返してくんねーか、俺の愛銃」
(鋭い……)
少し間を置き、女性は口を開く。
「嫌だ、と言ったら?」
「返してくれるまで話聞かずにこのくだりをエンドレスでやってやる。いいんだぜ、やっても?」
「ならいくらでも付き合って上げるわ」
ポケットから携帯灰皿を取り出し、タバコをこすりつける。
「あんまり強がんなって……あれだろ?お姉さん、相当眠いんじゃないのか?今にも寝ちまいそうだぞ。それに、俺に話があるんだろ?」
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