桜の下で

10/12
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
多くの友人たちの前で、私を自慢するかのように彼に言われて、私は俯いて、こぼれそうになる涙を拭う。 「俺の病気は発見も遅くて、治るものでもない。今生きられているのも奇跡のようなものです。俺はいずれ、遠くない未来、彼女と子供を残して、先に死んでしまう。 だから…、俺がこの世からいなくなったあと、どうか…彼女と俺の子供をみなさんで支えてください。 俺が生きている間は、まだ生きていやがるのかくらいで、俺たちを見守っていてください。 長くなりましたが、これを謝辞としてこの場を締めさせていただきたいと思います。 本日は誠にありがとうございました」 彼は泣きそうになりながら、皆様へ頭を下げて。 拍手をもらうと、鼻をすすって恥ずかしそうに笑って、私を見る。 私はぼろぼろ泣いて彼を見上げているしかできなくて。 彼は私のそばに座って、涙を拭ってくれる。 あなたが愛しい。 何度思っただろう? 馬鹿な結婚。 だけど、きっと私は幸せな花嫁だ。 誰に何を言われても、この人といる今をまちがっているとは思わない。 つらくて、悲しくなることも。 あなたが喜びにかえてくれる。 彼の友人は近くでもあるから次々と帰っていって。 私の友人はこの家に泊まる予定できていて、旦那も子供も置いてきていた。 友達に手伝ってもらいながら、宴会の後片付け。 彼も運んだ机を元の別の部屋へと運んで後片付け。 恭太はベビーベッドでおやすみ。 「杏奈の誓いの言葉聞いていないんだけど。あの謝辞に返事はないの?」 洗い物をする私の肩に体当たりするようにぶつかってきながら、どこかからかったように言ってくれる。 「もう、みんな帰ったのに」 「私たちがいるんですけど?」 二人の友人は顔を見合わせて、ねーと笑顔を見せ合う。 彼の謝辞のようなものを考えても、私にはうまく言葉が浮かばない。 うーんとひたすら悩んでしまう。 彼は口がうまい、饒舌な人だと思う。 「杏奈の友達のお姉さん方、順番に風呂入ってくださいね。バスタオルとタオルは貸し出すし、置いてあるものなんでも使ってください。それともみんな一緒に入る?狭いと思うけど」 彼は戻ってきて、キッチンに顔を出す。 私はまた体当たりされる。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!