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多くの友人たちの前で、私を自慢するかのように彼に言われて、私は俯いて、こぼれそうになる涙を拭う。
「俺の病気は発見も遅くて、治るものでもない。今生きられているのも奇跡のようなものです。俺はいずれ、遠くない未来、彼女と子供を残して、先に死んでしまう。
だから…、俺がこの世からいなくなったあと、どうか…彼女と俺の子供をみなさんで支えてください。
俺が生きている間は、まだ生きていやがるのかくらいで、俺たちを見守っていてください。
長くなりましたが、これを謝辞としてこの場を締めさせていただきたいと思います。
本日は誠にありがとうございました」
彼は泣きそうになりながら、皆様へ頭を下げて。
拍手をもらうと、鼻をすすって恥ずかしそうに笑って、私を見る。
私はぼろぼろ泣いて彼を見上げているしかできなくて。
彼は私のそばに座って、涙を拭ってくれる。
あなたが愛しい。
何度思っただろう?
馬鹿な結婚。
だけど、きっと私は幸せな花嫁だ。
誰に何を言われても、この人といる今をまちがっているとは思わない。
つらくて、悲しくなることも。
あなたが喜びにかえてくれる。
彼の友人は近くでもあるから次々と帰っていって。
私の友人はこの家に泊まる予定できていて、旦那も子供も置いてきていた。
友達に手伝ってもらいながら、宴会の後片付け。
彼も運んだ机を元の別の部屋へと運んで後片付け。
恭太はベビーベッドでおやすみ。
「杏奈の誓いの言葉聞いていないんだけど。あの謝辞に返事はないの?」
洗い物をする私の肩に体当たりするようにぶつかってきながら、どこかからかったように言ってくれる。
「もう、みんな帰ったのに」
「私たちがいるんですけど?」
二人の友人は顔を見合わせて、ねーと笑顔を見せ合う。
彼の謝辞のようなものを考えても、私にはうまく言葉が浮かばない。
うーんとひたすら悩んでしまう。
彼は口がうまい、饒舌な人だと思う。
「杏奈の友達のお姉さん方、順番に風呂入ってくださいね。バスタオルとタオルは貸し出すし、置いてあるものなんでも使ってください。それともみんな一緒に入る?狭いと思うけど」
彼は戻ってきて、キッチンに顔を出す。
私はまた体当たりされる。
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