ふたり

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うれしいのにこわい。 私から言うのは大丈夫。 彼に言われると、返事もなく逸らしてしまう。 返す返事が笑って言えるか自信もないから。 口約束にしかならなかったと彼に言われるのが嫌なのかもしれない。 未来をたくさん描いて、その未来に近づくのを楽しみに思えるような彼の体じゃない。 今はお母さんもいなくて、不安が増えているのかもしれない。 彼の体、また手術をする前になっている気がする。 ご飯もあんまり食べない。 食べたと思ったら吐いてる。 彼はそういう姿を見られたくないのかもしれないけど、私は一人で支えなきゃいけないのがこわい。 病気じゃなかったら、私は彼と結婚していなかった。 あんな結婚できなかった。 それはよくわかってる。 不安になってから、そう何日もたたないうちに、彼はどんどん元気をなくして。 私は仕事を休んだ。 「病院、いきましょう?お母さんもいきなさいって言ったんでしょう?」 「……本当、俺が生きるのって金を食っていくだけだなと思ったり…」 彼はベッドの上、苦しそうにお腹を押さえて私に背中を向けて言う。 いつかお母さんに言われた言葉が響いちゃってる。 「ご飯食べられるようになったら、お金食べません」 「…杏奈?それ、そうだけど、なんか違う。……っ!」 痛がった。 なのに病院いきたがらない。 「救急車かタクシー、どっちがいいですか?答えられるうちに言ったほうが救急車に乗らなくても済みますよ?」 「杏奈の運転で。免許持ってるのは知ってる」 「じゃあ、いきましょう。免許はあるから運転できます」 「……ペーパードライバーなのに?」 「いきます。そのまま入院確実だと思うので、前が開く服にしましょう?」 私は彼の箪笥を開けて、これならいいかなというのを選んでいく。 「…こういうときだけ強引」 「起き上がれないくらい弱っているからだと思います」 私は彼の服を脱がせて、前が開く服を着せる。 ボタンをとめていると、呼吸を荒くして苦しそうにしながら、抵抗なく脱力している彼が私を見上げてくる。 その頬に私は手を当てて、額の汗を拭うように手を滑らせる。 大きな赤ちゃん。 ……私が守る。
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