桜の下で

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嫉妬されるようなものもないところが虚しい。 なのに彼は嫉妬してくれる。 「父さんとこで働こう?休んでも気楽だし。俺も今度こそ仕事もらおう。毎日出社しなくても在宅でできるだろ」 「お父さんにお金をもらうことになるって、どうなんでしょう?」 「支援してもらっている金を働いて返すってことになるんじゃない?」 なるほど。 更に支援していただくことになるのかと思ったけど、そう考えることもできる。 彼の持っている資格も私の持っている資格も役に立つ。 あとは労働者をお父さんが求めているかどうか。 人手があるのに雇ってもらうのは悪い。 そんな話をしながら家に帰って。 彼は久しぶりになる家に喜んで、部屋の暖房をいれると居間で転がる。 私は帰りましたとおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶。 一人でここに暮らしていて、他にただいまを言う人がいなかったから。 母と姉もそばに置かせてもらっている。 ただの湯飲みだけど。 「…恭太がいない」 「お母さんところにいます。入院中の荷物をほどけたら迎えにいきます」 彼の声に言葉を返して、私は荷物をほどいて洗濯物と箪笥に入れるものにわけていく。 「……そうやってこれからも預ける方向でいかない?そっちのほうが大変?俺がみていられるときはみるし。手術して回復したし」 「恭太がおむつをはずせた子ならいいんですけど、まだはいはいの赤ちゃんですから、孝太さんがみているのは大変だと思います」 「俺は主夫です。子育てもします」 彼は言い切ってくれて、私は彼の考えを考慮して頷いた。 また彼が倒れているのが多くなったら、お母さんにきてもらうことにして。 彼に父親をしてもらいたい。 そんな気持ちもある。 無理をさせたくはないけど。 恭太の父親でいてほしい。 私の夫で、恭太の父親でいてほしい。 「杏奈は退院祝いの料理作っていて。俺が恭太迎えにいくから。前と違って食えるから、多めにしないと杏奈のぶんなくなるよ。んじゃ、いってきます」 彼は私の額にキスを残して、軽い足取りで車に向かう。 元気になった。 それが幸せにも思う。 愛情込めて、腕を奮わせてもらう。
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