356人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
「お仕事の邪魔してごめんなさい」
「邪魔じゃないから。杏奈はどういう家に住みたい?これとか…これとか」
彼はファイルの中のものを次々と見せてくれる。
でも間宮さんの家でもわからなかった。
どんな建物なのかわからない。
間取りはわかるけど。
「模型ないとわかんないです。壁の色とか天井の高さとか見えないから」
「好きな間取りは?LDKワンフロアとか。床や壁も。杏奈の好み」
想像してみた。
間宮さんの家や彼の実家やこのおじいちゃんちを考えて。
でもこれがいいというのが出てこない。
「間宮さんの家って奥様の希美さんに似合ってました。孝太さんが考える私に似合う家がいいです」
なんて言葉にしてみると、彼は悩んでくれる。
私が上手く答えられなかっただけで、ちょっと悪いことしてしまったかなと思って苦笑い。
「ナチュラルカラー、ナチュラルビューティー。自然、四季…。君をイメージするとこんな感じ」
孝太さんが言う私のイメージに思わず笑う。
「着てる服ですよね。メイクもあまり濃くないし。もっとメイク上手くなりたかったんですけど、不器用みたいで。慣れるほどメイクしようとしていないのもありますけど」
彩さんに建ててあげる予定だった家は、きっと華やかな感じだったんだろうなと思う。
彼の実家のようなものを想像する。
その図面は見せてもらえないみたい。
見なくてもいいけど。
彼と彩さんが描いた夢。
嫉妬したくないし。
とか思いつつ、やっぱり嫉妬している。
「孝太さんの好みのものでいいです。孝太さんの理想の家に住みたいです」
私は言い直してみた。
彼の理想で、彼が一緒にいたいと思って結婚してくれたわけじゃないのは、よくわかってる。
私はその隙間に滑り込んだだけ。
たまたま私が一番最初に滑り込めただけ。
それでも愛は…いただけている。
「君となごなごできる縁側があるのがいいな。この家でじゅうぶんだけど、ちょっと広くて声届かないことがあるから、狭いほうがいい」
彼の言葉に嫉妬した気持ちも癒される。
私は彼に甘えるように、彼の肩に頭を傾けてくっついて、彼は私の頭を撫でて、額にキスをくれる。
最初のコメントを投稿しよう!