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彼に知らせようとすると、恭太は私に倒れ込んできて。
立ったよと言うこともできない。
立ち止まるたびに、もう一回立ってとやってみた。
結局、立ってくれても彼に見せることもできないまま、家に帰る。
花火は結婚記念日で恭太の誕生日となる日より後にある。
今年、彼と一緒に花火を見れることがとてもうれしい。
「まぁ、座れてるからいいんじゃない?」
彼は畳に座って、彼が買ってくれた玩具で遊ぶ恭太を見て言う。
遊ぶといっても振り回したり、叩いたり、かじったりするだけだけど。
あぐらかくように座る足は見るからにさわり心地よさそうな柔らかそうな足だ。
上半身は背が伸びてスリムになってきたように見えるかもしれない。
髪もふさふさ。
大きな目の瞳はグレー。
小さな鼻と色のいい唇。
我が子ながら、そこらの赤ちゃんタレントよりかわいいと思う。
「立って歩けるようになったら、もっとかわいくなりますよね」
「俺の小さい頃の写真にそっくりなんです」
「孝太さん二世ですね。美形になりますね」
トンビが鷹を生んだ。
私はうれしくて笑顔になる。
「中学まで女に見られることが多かったので、本人はあんまりうれしくないかと」
「でも私、綺麗みたいな感じで鏡見ていたんでしょう?」
「それ気持ち悪いです。……どっちかっていうと、よし、筋肉ついて男らしい体になってきたって、体見ていました。顔はあまり見せたくないので、前髪で隠すのが多かったかと」
「だから今も前髪伸びてもすぐに切りにいかないんですね。綺麗な顔なのに隠すのもったいないです」
私は彼の前髪にふれて、指先で耳にかける。
「……副作用で髪が抜けなくてよかった。ただ治療を続けていると、そのうち抜け毛ひどくなるだろうし、坊主にしないと」
彼の坊主頭を考えてみる。
似合わない。
彼に似合う帽子かかつらを用意してあげたくなる。
「まだそんなにひどくないんですよね?」
「今使ってる薬にも副作用に抜け毛あるんだけどね。言うほど抜けない」
彼は軽く髪を引っ張って、抜け毛がないことを見せてくれる。
彼の治療は4週2回。
以前と同じ治療。
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