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翌年の花火も一緒に見れた。 恭太は2才。 さすがに歩けるようになって、言葉も覚えて、会話になるようになってきた。 早産で生まれたから、何か障害があって立てないのかと思ったりもしたからうれしかった。 その翌年も花火を一緒に見れた。 恭太は3才。 小さな手を繋いで歩いた。 ただ、何事もなく、平和に過ぎていく日々。 それが幸せ。 彼が生きてくれて、年を重ねる幸せ。 些細なことでケンカもしてしまうけれど、わかりあえなくてつらくなることもあるけど。 ふとしたときに彼を愛しいと思う。 彼がくれた宝物を大切に思う。 彼と生きる時間、少しでも幸せでいたくて、幸せだと思って欲しくて、笑いあっていたくて。 毎日を過ごしていく。 大きなことは何もないけど、毎日は彼がいるからいろんな色に彩られる。 彼の体にまた癌の転移が現れたのは冬のこと。 痛かったら我慢しないで病院にいくという約束はしていたけど、転移していることがわかったときには遅くて。 彼はまた手術をすることになって、薬も変わることになって、とうとう髪をすべて自分でなくした。 白髪も見えてきていた髪はなくて、彼の顔を隠す髪もない。 食事を食べても吐いて、少し太れたのにまた食べられなくなった。 それでも彼はつらいと嘆いたりしないで、笑って、恥ずかしそうに帽子を深く被る。 私が嫌だと泣いてしまう。 まだ大丈夫だと彼に慰められる。 彼のほうがつらいのにって思って、泣かないように我慢しても、彼に見つからないように泣いて、物事が少しはわかるようになった恭太に慰められてしまう。 痛い痛いの飛んでいけ。 なんて言って、頭を撫でられて。 受け止めて、私がしっかりしなきゃいけない。 思っても、強くなれない。 強くなれなくても、時は進む。 彼は家に帰れない、ベッドでの生活になっていく。
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