10/13
前へ
/230ページ
次へ
声にならない、言葉にもならない悔しさは、いつもいつも私の中にある。 何もしてあげられないこと。 こんなことしか、もうできないこと。 もっと、ああしていればよかったとか、こうしていればよかったとか、そんなものが心の中にある。 骨と皮だけのような、彼の手を握って、ただ寄り添っている毎日。 テレビの中はいつもと変わらない。 なごなごと。 のんびりと。 ほのぼの幸せだなと。 そんな毎日を繰り返す。 広い病室には泊まることもできて、恭太も一緒にとはさすがにいかないから、お母さんのご迷惑を考えつつも恭太を預けて、たまに泊まる。 ベッドは他に用意できるけど、そのベッドで横になることもなく、彼の隣で眠る。 明日にはもう…。 目が覚めたらもう…。 そんな不安を持つ毎日。 だから、あまり離れたくない。 眠ることも彼の手を握っていないとできそうにない。 彼の車はもう私の車のようになっている。 運転も慣れて、病院から家に帰る。 彼の服やタオルの洗濯をして、私もお風呂に入って着替えて、縁側をどれくらいぶりかに開けて、一人、座ってみる。 子育てしなきゃいけないのに、お母さんにお世話になりっぱなし。 彼のそばにいても何もできないのに、彼のそばにいたいばかり。 それを思うと、溜め息が出る。 病院からいつ連絡がきても、すぐに出られるように携帯ばかり気にしてしまう。 洗濯物を干し終わったら、また彼のところへいこうと思っていた。 着替えもタオルも持っていってあげなきゃいけないしと、理由をつけて。 結局はただ私がそばにいたいだけ。 ここにいると思えれば安心する。 携帯の着信音が静かな家の中に響いて、びくっとした。 近づいてみると、間宮さんからで。 少しほっとして、電話に出る。 お見舞いにいってもいいのかという電話だった。 彼は緩和ケア病棟に移って少しすると、携帯の着信に出なくなって、メールも返さないようになっていた。 彼を心配してくれる気持ちはわかっているけど、彼の意思を尊重して、私はお気持ちだけでと断った。 彼の今の姿は…あまり誰かに見せたいものでもない。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加