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私は休みまくってばかりだった職場を辞めて、お父さんのところで雇ってもらうことになった。 休みすぎて行きにくくも思っていて、労働でお父さんにお金を返すということにした。 それはそれで、大きな会社に雇っていただくことになって。 肩身が狭くも思う。 恭太の通う幼稚園は長く預かってはくれないし。 お母さんにお世話になり続けているわけにもいかないし。 彩さんのいる保育園で預かってもらうことにした。 知っている人がいる保育園ほど、安心して預けていられるところはない。 ただ顔を合わせるたびに、誰か紹介してくださいと言われるばかりで。 涼太さんが結婚逃しているという話をしておいた。 結婚するかどうかは私は知らない。 車を使わなくても保育園はいける。 恭太のお迎えにいって、手を繋いで、あのおじいちゃんの家に向かう。 お母さんは私の家のように言うけど。 私の家じゃない。 私の家はお父さんが今、建ててくれている。 彼の注文どおりになっているのかはわからないけど、それは私の家と胸を張って言ってしまおう。 図面も知らないけれど、きっと私に似合う、なごなごとできる縁側のある家だろう。 「ねぇ、きょうたん」 「なに?」 歩きながら声をかけると、恭太はかわいい声で返事をくれる。 たったそれだけなのだけど。 幸せを感じる。 「きょうたん」 「なにっ?」 ちょっと怒った。 名前を呼んでるだけと気がつかれたようだ。 「…お父さんの名言集でも話す?」 「…いらない」 間をおいて、頭を横に振って言われた。 冷たい子だ。 それは私のたった一つの恋愛の、のろけ話になるというのに。 「聞こうよ、きょうたん」 「いらない」 「聞こうよー」 なんて、私は小さな手を握って、ぶんぶん振って。 彼に甘えるように息子に甘える。 大きくなったら本気で嫌がられそうだから、今しかできない。 大きな宝物。 君が大きくなったら、彼の名言集を彼女になった子に言うくらいに、耳タコになるまで聞かせてやろう。 あなたがいるから、私は生きていく。 Fin 2014.8.22
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