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「助けて助けて助けて助けて助けて助けて……」
廃墟の如き荒廃した土地にて、極小な悲鳴が誰にも聞こえず木霊している。
か弱き叫びは鉄塔の下の赤土で発せられ、今にも息絶えようとしているかの様であった。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて……」
ひたすらに助けを求め続けるは人にあらず。
其処に蹲りしは胡麻粒にも満たない只の一匹の小さな『蟲』である。
とは言っても、我々のよく知る六本足の『虫』では無く、我々のよく知る複眼を持つ『虫』では無い。
二本足で二本の腕のある二つの眼球を持った『蟲』である。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて……」
『蟲』は只々狂ったように助けを求めていた。
『蟲』はただ音声を反復するだけの機械が如く声を出していた。
誰も通らぬ鉄のふもとで。
「やぁ、こんにちは。」
否、訂正すべきだろう。
誰も『通っていなかった』鉄のふもとである。
「助けて助けて助けて助けて……」
『蟲』は眼前の少女の声に気付いておらず、ただ助けを繰り返し繰り返し求めている。
そして荒れ地に似合わない純白のドレスに身を包み、右目が純粋な黒で染まった少女は『蟲』に優しく微笑みかける。
「私が助けてあげる……いや飼ってあげる。」
「可愛い可愛い……私の『蟲』ちゃん。」
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