雨音に融ける思い出

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  そうしていると、空が一層重たくなった。 触れてしまえそうなほどに。 たしか、予報ではバケツをひっくり返したような雨になると言っていたか。 ……雨をはらんだ雲は、限界を訴える子供の顔に似ていた。 愚図るような雷鳴が、ごろごろと空気を震わせていた。 そろそろ、二本目の煙草が終わる。 フィルターの少し手前にきたところで、今度は地面に吸殻を吐き出した。 アスファルトと砂地の境にころりと転がって、薄く紫煙を生むそれを呆けて眺める。その数秒後、西の方からざぁっと音をたてて、風が一陣吹いた。 そして、 -----ぱかん、ぱぱ、ぱたん、 間抜けな音が、相棒から響く。 ぱ、ぱ、ぱ、ばらばらばら、 アスファルトが冷える匂い。 ざららららららららららららら… 降ってきた。 予報通り、激しい雨。 水を含んで徐々に重たくなり、まとわりつく服と髪。 耳を圧迫するような雨の音に、俺は目を閉じて聞き入った。 雨粒は草木を叩き、アスファルトを叩き、オンボロ車を叩き、鈍い音で俺を叩く。 音を分かたれたそれらは、まるで俺をこの世界から押し出そうとしているようで。 心地よい、圧迫感。 顔を上に向けると、遠慮なしに重い雨粒が叩いた。 徐々に体が冷えていく。 それに伴って、燻る頭が冴えていく気がした。 ああ、気持ちいい。 しばらくそんな風に浸って。 しかし、そんな心地よい時間は、突然遮られることになった。
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