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狭い車内に、パンツ一丁の男が二人。
濡れた服は水気を絞って、後部座席に適当なビニール袋を敷いて並べたが、流石に下着を脱ぐことは躊躇われ、それは固く絞って濡れたまま履いている。
肌寒さは車の暖房で誤魔化した。
窓は湿気で曇り、外は見えない。
つまり、外からも見えない。
それに幾分か救われた心地だ。
――隣の男に目をやる。
この雨のなかボロいスクーターで峠を走り、ずっこけて俺の愛車をへこませた男。
幸い、車もスクーターも軽い傷で済んだし、男も打ち身や擦り傷を数ヶ所作っていたが、大きな怪我はない。運のいいやつだ。
このままこいつを病院まで送ってもよかったが、服も濡れているし、この雨の中を走るのも面倒だし――男もスクーターを放っておけないらしく、とりあえず車で雨宿りをすることにした。
ずいぶんしょげた顔をしている。
車に傷をつけたのを気にしているのか、服を着ていないからか、そわそわと落ち着かない。
いつもはセットされているだろう金の短髪がぺたりとしぼんでいるから、余計に情けなくみえる。
顔立ちに幼さは残っているが、整っている部類だと思う。
ほぼ一糸まとわぬ体は、それなりに逞しく、身長も中々高い。
きっと女にモテるだろう。
…などと不躾に観察していると、男と目が合った。
色素の薄い、丸くて大きな瞳。
何も言わないのが気まずく、暇潰しに雑談でも、と、俺は口をひらいた。
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