第四話

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 そんな俺にコイツは悪びれもせず、憎たらしいほど誇らしげな笑顔で、さらっと言ってのけた。 「だって、遺体捜査官だから」  コイツは捜査官の中でも捜査官らしくないやつだった。だが、一緒に仕事をして、分かったことが幾つかあった。正直あまり認めたくないことだが、例え味方になる存在がおらず、完全に孤立した状態であったとしても立派な捜査官だ。更に言えばそう遠くない内に追い越されるであろうことも感じていた。  事実、捜査して五分と経たないで、居場所を突き止めて、遺体を引き上げたのだから、指導と言われても教えられることが何もなかった。初めてのことだった。俺の嫌味をこんなにも、綺麗な笑顔でかわしたのは、後にも先にもコイツだけだろう。  その時になってようやく俺は気が付いた。嫌がらせをしていたのは、死者の声を聴く力と目を逸らさずに使い熟(こな)そうとして、向き合う才能に嫉妬していたからだ。もしも自分の立場を揺るがされるとしたら、それは間違いなく一人しかいなかった。 「すまない」  あまりにも短すぎる、俺の謝罪の言葉で全てを察したように、そっと微笑した。何か言ってくれと直接は言わないが、俺が言葉を求めている時に限って、何も言わなかった。その上どうにもこいつには”感情”と言うものがないように思った。  何故か感情がまるで読めなかったからだ。極端な話でいえば、喜怒哀楽があるのか、それすらも不確定で、掴み所がまるでなかった。 「人からは好意よりも、敵意を向けられる方が慣れているから」  自分なりに謙遜したのか、それとも俺に対して、何も気にしていないと気遣ったつもりなのだろうか、どことなく翳(かげ)のある笑い方とともに冷たく突き放された。俺の目の前にいるコイツから吐かれたその言葉には、不必要な詮索はするなという強い意志が込められていた。  その証拠にガチリと交わった眼は、闇の底のさらに底を見据えていた。明らかにこれ以上は、詮索されたくないようだ。踏み越えるのがとてつもなく、危険に感じるほどの雰囲気を放っていた。最初から特に好かれてはいないと、勘付いていた。しかし、ここまではっきり敵意を露わにされたのは初めてのことだった。 「遺体発見が随分と早かったが、前職は何をしていたのか聞いてもいいか?」 「フリーダムって小さい出版社で、ミステリー作家をしていました」
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