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発見された遺体は段ボール箱に詰め込まれて、被害者少女が通っていた、中学校の校庭に放置されていた。何の意図があってかは未だに不明だが、遺体を細かく切断していた。その割には隠そうとする意思がなかった。寧ろさらし者にしているという、異質な傾向が伺えた。
その遺体を一旦は警察が持ち帰って、身元を割り出すために捜査に乗り出した。しかし、現場に到着した現役の刑事が見間違えたまま、押収するほど完成度の高い人体模型とすり替わっていた。
その事件の捜査は彼から彼の後輩へと委託されたが、本物の遺体は今も見つかっていないようだ。
遺体の消失とすり変えられた瞬間は不明だが、犯行が大胆であったため、当初は前科持ちではないかと疑われ、データベースへ検索をかけた。しかし、それらしい人物が浮上してこなかった。そのため、初犯の可能性も出て、結局は振り出しとなった。遺体を扱う遺棄の仕方、犯人像、現在も謎ばかりだ。
まさか遺体の損壊に切断機を使うとは想像しておらず、事件は難色を示した。ようやく凶器を特定した頃には、時効切れで捜査対象ですらなくなった。おまけに証拠隠滅及び被疑者が自殺したあとだった。
「でも切断機ってレーザーポインターみたいなものですよね。そんなものが人体を切断なんて物理的に可能なのですか」
「お前…何か変な想像していないか?」
私が首を傾げると、彼は呆れたように溜め息をついた。どうやら私が考えているものとは、異なっているようだった。
彼は私にレーザー切断機の危険性をみっちりと講義した。ポインター程度なら人体に害はないのだが、金属を切断する場合は、目が眩むほどの光を放ちながら、高温のレーザーを集中的に当てることで切断が可能なのだ。切断機を人に向ければ、当然のことながら火傷を負ってしまう。それでも人に向け続けると人肉を焼き切れるほどだ。そこまで説明されて思わず小さく悲鳴を上げると、真顔で”分かったか?”と聞かれた。
しかし、腰を抜かすほど驚いたため、呂律が十分に回りきらず、コクコクとぎこちなく頷いた。その反応がよほど滑稽に見えたのだろうか、私はまた彼に爆笑される羽目になった。
「それじゃあまた明日な」
「はい」
玄関前で車から降りると、そう声をかけられた。
また明日、か。
そんな言葉を聞いたのは、本当に久しぶりだった。何だかくすぐったい気持ちでいっぱいだったが、悪い気はしなかった。
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