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そんな底知れない謎の多い、特殊組織にある人物が訪ねて来た。それも普通ではなかった。
本来であれば捜査官の勧誘はcscの仕事だ。何故なら話を聞き出すプロ集団であるためだ。しかし、それに対して”彼女”は一切応じなかった。それどころか門前払いにして取り付く暇もないほどだった。
そこで通常はcscの中から応対する人物が変わるのだが、彼女の場合は本部の最高責任者というべき遺体捜査官取締役が自ら交渉に乗り出した。それに対して最初こそは応じなかったが、八度目の交渉で成立した。
最高責任者が直接に交渉することなど、異例中の異例だ。さらに彼女は一般人であった。遺体捜査官に前職の制限はないが、ほとんどは検察官、解剖医、医師、警察官など、遺体を見慣れている業種の出身者が多かった。遺体に関わる経験がない、一般の女性が遺体捜査官になるというのは、本部が設立されてから初めてのことであった。
まず、彼女がどういう人物かと問われると、内に黒い死のにおいを漂わせながら、それでも生にしがみついているような、どちらとも確定しないままで、存在の輪郭が揺れていた。そんな不安定な危うさがあった。
しかし、これと言って特徴がなく手入れが行き届いた、赤茶色のストレート髪は落ち着き払った雰囲気だった。髪を垂らしていると肩甲骨にあたるほど長いため、白いゴムでポニーテールにまとめていた。その上からさらに赤いリボンで蝶々結びに結わえてあった。
その一方で眼の色は派手なクリスタルの輝きを放っていた。完全なまでに髪と眼の色が相反するため、悪目立ちする容姿で陰口をたたかれることも少なくはなかった。緊張感のあるきりっとした小顔は、二十七歳にして大学生に見えるほどの童顔だ。さらに唇は横長のたらこ唇で例えるなら魅惑の女性だ。しかし、身長が百六十八cmと低いため、モデル時代はよくヒールの高い靴などを使ってごまかしていたほどだ。
そして白地に青の水玉模様のタートルネックは少し長めで、袖口を二回折っていた。その下は紺色の膝下Jパンを着用していた。さらに白と黒の横縞ニーハイソックスと、春らしい淡い桃色のウォーキングシューズを履いていた。
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