第六話

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 考えるだけは考えてみた。しかし、どれもこれも、俺が思う天職にはほど遠かった。地道に聞き込みをして、証拠を集めて、犯人を炙り出して手錠をかける責任を背負うのだ。  何年か後に逮捕した相手が更生して、自分の前に現れて手紙や直接お礼を言われることがあった。その一方で逆に反撃して来たやつもいた。しかし、それでも逮捕して終わりではない。更生しても途絶えない、繋がりを一番強く感じられるところがやりがいだった。  確かに張り込み調査などで、署に泊まり込むことが多く、家族といっても会話らしい会話もなかった。やりがいはあっても、本音ではもう少し家族との時間が欲しいとは感じていた。ようするに仕事を優先するか、家族を優先するかという単純なことであった。  そんなもの天秤にかけるまでもない。俺が優先したいのは家族だ。給料は下がってもいいが、なるべくは長く一緒にいられる時間を確保したかった。  ちょうどその時に、同じ部署にいた同僚が俺に、自衛隊に誘ってきたのだ。迷ったのは事実だ。しかし、業務内容などを詳しく聞いているうちに、以前よりは家族との時間を取れそうだと感じて、一つ返事で妻に相談することもなく決めてしまった。  最初は愛想を尽かされた家出だと思っていた。しかし、電話をかけても繋がらなかった。そこで携帯会社に駆け込んだところ、まだ解約手続きは取られていないとの回答だった。  妻と娘は同時に失踪したのだ。しかし、遺体も遺留品もなかった。そのため事件事故には巻き込まれていないだろう。そうは言っても安心できないのが事実だ。そこでどうにかして自力で探せないかと、仕事の合間で動いてみることにした。  すると情報収集のために聞き込みをかけた先で、妙な噂を知った。何でも表向きは未来運送とあくまでも一般的な運送屋を銘打っているが、それはあくまでも表向きの看板だ。裏では遺体捜査官本部と呼ばれ、その呼び名の通り、主な業務が遺体捜索を専門とした特殊組織らしい。そこに所属している人間であれば、何かわかるかもしれないと言われた。  しかし、その噂には裏もあって、厳しい審査を経て入社した者にしか、その場所は公開されないというのだ。いかにも怪しげだが、他に確かな方法もなかった。それがまさか審査基準を満たすとは思ってもみなかった。
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