雪の日の別れ

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「よし…行くか。」 必要な大きな荷物は日を改めてあっちに送ってもらうし。後は小さいやつだけだな。 「昇太?」 後ろから声がし、振り向くと親父とお袋が立っていた。 「……行くのか?」 「ああ。挨拶回りは済んだしな。」 「昇太…!」 お袋は俺を呼び、抱きついてきた。 「あなたには謝っても謝りきれないわ。私たちの罪滅ぼしとして、好きにしていい。でも、忘れないでね。あなたの家はここよ?」 お袋は涙を流した。 「親父、お袋。今のままで育ててくれたことは感謝してる。こんな俺、育てにくくて苦労しただろ。だからもう、2人も自由に生きてくれ。俺はそれだけを願ってる。今まででありがとう。」 親父とお袋は笑った。涙を流しながら。 「昇太様、お車のご用意が出来ました。」 坂田が来て、俺は頷いた。 「会社の社長はちゃんと立ててある。仕事の引き継ぎもしたし、大丈夫だ。」 「わかった。気を付けてな、昇太。」 「…頑張って。」 俺は2人を真っ直ぐ見て、それから家を出た。 30年間住んでいた家。 よく遊んだ庭。 そして、家の使用人たちや両親。 すべて大切なモノだ。 目から出た温かいモノは、俺の気のせいっていうことにしておこう。
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