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 道は人気が全くなかった。三人で横一列になって進んだが、二人の歩幅は広く、私は必死になって歩いた。 母は、日傘を差していた。反対の手で荷物持っていたためか、私が遅れないために、母の腕をつかもうとすると、母はうっとうしそうに、それを拒んだ。 「ごめんね、もう少しで着くから。がんばって」  彼がそう言って、私に手を差し伸べた。彼の手を握りながら歩くと、とても楽だった。 「もう夏休みだっけ?」  彼が私に訊いた。 「まだ学校あるよ。でも今日は日曜だから一日暇なの」 「お母さんのお手伝いが忙しいんじゃないの?」  彼が訊くと、母がわざとらしく笑って、「どうしても一緒に来たがって」と言った。  私は、その日買ってもらう洋服のことを考えて、何も言わなかった。 「最近の子って、家でゲームばっかして、全然外に出ないみたいですよね?」  彼が言うと、母は頷いた。 「親にも責任があると思うんです。過保護になってる、と言いますか。私のとこは、こういう時以外ににも、積極的に出かけるようにしているんですけど」 「あー、そのほうが絶対いいですよ。ゲームばっかだと、人との接し方わかんなくなりますし。まぁ、俺も人のこと言えないんですけど……こういう活動ってお子さんの成長のため、というのも考えて行っているんですか?」  今の彼は、先ほど母の話を適当に聞き流していた時とは別人だった。家から外に出て、社交的になったというような解釈をその時の私はしていた。 「そうですね、人との触れ合いの時間を作るのも親の務めだとは思います。ただ、うちの子の場合は、自主的にそういったことができるんですけど……」  その後、母と彼がどんな話をしていたか、私ははっきりと覚えていない。「人を見たらまず疑え」という考え方が間違っているというような話だったと思う。それより、私が鮮明に覚えているのは、その時私たちが歩いているところについてだった。  そこは廃墟が建ち並ぶ団地だった。
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