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「どうして神様に助けてもらわないんだよ!」  母は、もう彼が話の通じるような人間ではないと思っていたようだが、私には、彼が真剣に言っているように聞こえた。 「電話しろよ。警察が来るまでに、あいつら呼んで、この子に現実がどういうものなのか教えてやるから」  彼はそこで、しゃがんで私を見て、私にだけ聞こえる声で。「大丈夫だよ」と言った。私は、それを聞く前より不安になっていた。  彼は立ち上がって、携帯を手から落とした母を見た。 「この年で知れば、後が楽でいいじゃねぇか! 柔軟だし、きっとすぐに慣れるよ。そしたら、俺も教えてもらうよ! 良かった、これで俺も助かるかもしんない。この子に教えてもらうよ! ねぇ、いいでしょお母さん?」  彼はまた狂ったように笑い出した。母はそれを聞いて、立っていられなくなり、また地面に手をついた。そこから、土下座をするような形になって、泣き出した。 「ごめんなさい! お願いします、返してください!」  母がそう言うと、彼は「神に頼め! 意味ねぇけどな!」と怒鳴った。母は神に頼んだりしなかった。彼の言う通り、そうしたところで、何も変わらないと思ったのだろう。  私は、そんな母の姿を通して、自分の行く末を察し、恐怖した。その時の私は、単純に殺されると思っていた。母から刷り込まれていた宗教のありがたい教えなど、そんな状況では、何一つ思い浮かばなかった。ただ、死ぬと思った瞬間、何か異変が起きたことに私は気づいた。 「神はいるか?」  彼が訊くと、 「いない」  母は即答した。
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