平凡な一生、一瞬の輝き

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私は今……あの日飛び降りようとしたマンションへとタクシーを走らせている。 なんて清々しい気持ちなんだ。 凄く穏やかな、こんな気持ちは久しぶりだった。 そんな私の心に水を指す様に、マンション迄あと少しという所で、客とおぼしき奴の手が挙がる。 無視をしようかとも思ったが…この世に未練がましい…そんな私は、死ぬ前に誰かと少しだけ話がしたくなった… 平凡な私の事など記憶には残らないだろう、まして一度だけ乗ったタクシードライバーなど覚えている筈もない。 それでも良かった、私なりの最後の証なのだから。 静かに車を寄せてドアを開けた。
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