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「運転手さんっ、前の黒のセダン追い掛けて」
息急き切って男は乗り込んで来た。
「はっ、はい」
男の言う通り数台前に黒のセダンが見える。
「この間隔のまま、見失わない様にお願いします!!」
男は身を幾分乗り出す姿勢で、手帳の様な物に忙しく何かを書き込んでいる。
こんなドラマの様な展開の客を乗せた事は初めてだった。
普段の平凡な私なら、黙って目的地を目指すのだが、今日は死を決意している。
最後に少しだけ…大胆になってみよう。
「…お客さん、刑事さんですか?」
ルームミラー越しに男は静かに頷いた。
本当に刑事だった!もしかして私は今、とてつもなくスリリングな事件に巻き込まれてるのでは無いのだろうか。
…こんな事は初めてだ!逸る鼓動を抑える。
「刑事さん…は、犯人を追っているんですか?」
「………ええ、ただこれ以上は…。」
守秘義務という訳か…男は固い表情のまま、じっと前方を見つめている様だ。
狭い車内に沈黙が走る。
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