第1章

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 「もう、お父さん、支度おっそいよ」  その人―――わたしの父親の隣に並び、むくれて見せた。  お父さんは少し困ったように笑う。  「ごめんごめん。でも、久しぶりに可愛い娘を車に乗せると思うと、綺麗にしたくなる父親心が」  目を細めながら言ってくるお父さん。  わたしは、フフ、と一度笑って見せる。  「可愛い奥さんのため、でしょ?」  笑顔のまま、訂正を。  結婚して、5年。  とっても仲が良い、両親。  「それもあるけど、でも」  反論しようと、わたしの方を向くお父さん。  「アハハ、ありがと、お父さん」  実子じゃない、わたし。  それでも、大切にされている自覚はさすがに持っている。  今日は、両親の結婚記念日だ。  だから、家族4人で、毎年恒例の旅行へと向かう。
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