第1章

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 「絆、荷物、貸して。後ろ置くよ」  4人家族なのに、なぜか7人乗りの我が家の車。  わたしの方に手を出しながら声を掛けてくれる、義兄、彼方。  わたしは荷物を持ち、渡すときにペコリ、と小さく頭を下げる。  「ありがと。お願いします」  1泊2日の、家族旅行。  今回は、片道2時間くらいの旅。  「絆、今日、何時に起きたの?」  「6時。わたしは誰かさんと違って、しっかり勉強してるの」  そう言うと、「いいんだよ、受験終わったんだから」と、軽く右腕を叩かれた。  だから、わたしは、  「お父さん、お母さん、お兄ちゃんがぶってくるー」  泣きまねを。  するとお母さんが笑いながら、手で顔を覆った。  「あなたいつからそんな暴力的な子になっちゃったの!!」  「え………えー、今から…?」  お兄様のそんな言葉に、わたしはブスッとした声と表情を作って、言う。  「うそだ。731日前だ」  すると、隣から聞こえる盛大な溜息。  「………記憶してんの?」  「冗談に決まってるでしょ」  定番の、馬鹿らしく、くだらない言い争い。  それが楽しいのか、お父さんは笑いながら車を動かした。  「ハハハ。じゃぁ、行くよ」
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