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知らせを聞いたのは、雨上がりの朝のことだった。行方不明であった兄、ホズが見つかった。それだけ聞けば、手放しで喜んだかもしれない。
「兄さん、なんで――」
それ以上は言葉にならなかった。寝かされているのは自分と同じ青い髪をした青年。顔は生気のない青白い色をし、濡れていくらかふやけている。身に纏う衣服は胸元が裂け、真っ赤に染まっていた。そんな姿を見ていると、どうしようもなく涙があふれてくる。様々な感情が胸の内で渦巻いて、言葉になりきらない嗚咽しか出てこない。
兄は見つかった。それも、無残に殺された姿で。何故もっと早く気づけなかったのか。助けることはできなかったのか。無力な己が悩ましく、拳を握りしめる。コツッと、背後に誰かが立つ気配があった。
「ハヤ様」
燕尾服を着た黒髪の男が遠慮がちに声をかける。名を呼ばれても、すぐには顔を上げる気にならなかった。物言わぬ兄にすがりつき、冷たくなった腕を握りしめる。
「なんで、なんで兄さんまで、こんな――」
涙がつうっと頬を伝った。顎から雫が落ち、青白い肌を濡らす。嗚咽と涙ばかりがこぼれ、ただ泣くしかなかった。感情に胸が圧迫され、息を吸うのも苦しくなる。皆の視線はあるが、そんなものはどうでもよかった。
やがて落ち着いたとき、肩を軽く叩かれた。
「ハヤ様、そろそろ」
「ああ、わかっている。すまない、静寂(しじま)」
呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。静寂と呼ばれた燕尾服の男は一礼した。静寂はテキパキと指示を出し、作業を進める。亡骸は丁寧に箱の中に入れられ、部屋の外に運び出されていった。
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