第1章

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少し早足で向かうと、私の姿を見つけた彼が手招きをしてくれた。 「あんなとこで何してたの?」 微笑みながら彼は言う。 「特に何も…」 「そっか。名前は?」 「戸崎です」 「戸崎…あぁ、隣のクラスの!どうりで見たことあるわけだ」 すいません、私は見たことありません…。 でも近くで見ると惹きつけられる何かがある。 整った顔してるなぁ…。 「戸崎さんさぁ、下の名前何て読むの?委員会で名簿の整理してる時に見たんだけど読めなくて。歌で叶える、ってすごい素敵だよね」 「かな、です」 「なるほど、じゃあ、歌叶って呼ぶね」 「え、呼び捨て?」 「俺のことも呼び捨てでいいから」 「名前知らない…」 「高橋結凛」 「ゆーり…くん?」 「くんはいらないよ」 「…ゆーり」 それでいい、と優しく微笑む結凛にキュンとする自分がいた。 「結凛は、いつもここで何してるの?」 「サッカー部見てんの」 「…部活は?」 「サッカー部」 「やらないの?」 「いろいろあってね」 なんで?と聞こうとしたけど、それ以上は何故か聞けなかった。 「歌叶は、いつもあの教室にいるの?」 「まぁ…」 「俺も行っていい?」 「サッカー部見ないの?」 「君といたいの」 なんて答えればいいのか口ごもっていると、「じゃ、そろそろ帰るね」と結凛は帰ってしまった。
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