第1章 招かれし者ミロ

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深い青のローブ。 薄汚く、ところどころ破れていて、 農夫の普段着よりもみすぼらしく見える。 が、卑下する気にはなれない。 かつて見た救国の乙女の気配にも似た 尋常ならざる者特有の霊的な雰囲気を その人影からも感じ取れるからだ。 人影がゆっくりと立ち上がり、 ミロの方を向いた。 ミロはその人物の顔を見て、 一瞬我を忘れて呆けてしまった。 美しい……。 決して貴族の令嬢のような華やかな顔ではない。 永久に美しい女神の彫像のような 厳かなお顔。 そのようにお見受けする。 「ここは戦場へ続く導(しるべ)の聖堂。 招かれし者、貴方の勝利を今日も祈ります」 青のローブの少女が厳然とそう言い、 手を合わせながら目を伏せる。 「あの……いや、失礼。多分貴女と会うのは初めてではない。 そうですね?」 ミロは恥を忍んで青のローブの少女に聞く。 青のローブの少女はわずかに眉を上げ、 そっぽを向いた。 「あ、あれ?」 ミロは何か酷く失礼な事をしてしまった気がして、 動揺を隠せない。 「何故一番大切な事を覚書しておかなかったのです?」 青のローブの少女は落ち着いた口調でミロに聞き返し、 まだ目を合わせてくれない。 「いや……失礼。何分不出来なもので、エスコートもろくに出来ませぬ」 嘘偽りなく言い訳をして、ミロは何とか許しを請おうとする。 青のローブの少女は呆れたように小さなため息をつき、 ミロのそばまで来た。 「貸しなさい」 そう言って、青のローブの少女はミロから紙の束と 羽根ペンをひったくって、表紙に殴り書きのように乱暴に何かを書き加えた。
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