第1章 招かれし者ミロ

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青のローブの少女が紙の束と羽根ペンをミロに突っ返す。 ミロは紙の束を見下ろし、意味不明な殴り書きを読むのに難儀した。 「随分と達筆で……何です、これ?」 ミロは恐る恐る青のローブの少女に尋ね、 彼女が冷たい視線で睨み返すのをうっと顔を引きながら受けた。 「ルーン文字です。 貴方の女神ノートの加護があらん事をと書きました」 青のローブの少女、ノートは不機嫌そうに説明し、 紙の束を指差す。 「忘れない内に下に訳を書きなさい」 ノートに指示される。 何だか教師に説教されている気分で、 とても懐かしい気がするが、 こんな少女にそうされるというのも なかなか乙である。 「ノートの加護……と」 ミロは訳を書き終え、紙の束と羽根ペンを懐に仕舞った。 「やれやれ……どうやら引き分けには持ち込めたようですね。 最初は覚書をしながら生き残り、宝を貯めると良いでしょう。 本当の勝負はそこからです。良いのですね、我が兵」 ノートが助言をしてくれる。 「了解であります」 ミロは背筋を正し、顎を軽く上げた。 兜を被っていればバイザーを上げる敬礼をすべきだと 思うが、今は軽装。これで勘弁してもらいたい。 「よろしい。では、次の戦場に向かいなさい」 ノートが異形の壁を指差す。 「参ります」 ミロは壁の前に進み、右手から侵入を試みる。 「武運を祈ります」 背後からノートの声がした。 ミロは口元で笑い、壁に侵入する。 最早仕える王も救うべき国も無い。 今や主人はあの女神ただ一人。 だから……彼女のために勝たねば。 この戦いが何時まで続くのかミロには分からない。 だが、魂魄が尽き果てるまで勝利を求め続ける。 女神ノートに勝利の報酬を。 それがただ一つミロの願いだ。
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