第7章 空蝉の人

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 紀伊の守の義母である、伊予の介の後妻は、本来ならば私の父帝に入内する筈の女人であった。  しかし入内の矢先に、衛門の督が死去し、入内の話は立ち消えになってしまい、後見を欠いた衛門の督の娘は、年の離れた伊予の介の後妻におさまった。帝の妃になるはずが、受領(ずりょう)の後添いとは、凄まじい境遇の変化である。 「不躾な事を訊くが、伊予の介はかねてより衛門の督の娘に恋こがれていたのかね?…いくら入内が無くなったとはいえ、うら若い女人のことだ。他に求婚者も居ただろうに、どういった経緯で、伊予の介に嫁がれたのか、そこがいまいち私には解らないのだが」
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