第7章 空蝉の人

31/49
前へ
/214ページ
次へ
 私が訊ねると、紀伊の守は 「さぁ…父から後妻をめとるという話を聞いたのもあまりに突然の事だったので、詳しくはわかりませんが、以前に一度、衛門の督の邸でちらと垣間見した事があったとかいう話は聞いております。それで、父が一方的に惚れ込んだのでしょう」  と、不自然な程、淡々とした調子で答えた。 「ほう…。一目惚れという事かな?伊予の介が一目で惚れるほど、後妻とやらは美人なのか?」  からかい半分にたずねると、紀伊の守は首をひねり、 「さぁ。義母とは申せ、私も間近で顔を拝見した事がないのでわかりかねまする」  と答えた。どうもこの紀伊の守という男、何か腹にいちもつ抱えていそうだ。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加