第7章 空蝉の人

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 夏の夜は静かに更け、仄かな酔いが私の心も体も心地よく高ぶらせていた。  供の者も、屋敷の内の者も、皆寝入ったらしく、聞こえてくるのは庭の遣り水の調べだけである。  目が冴え、寝付けない…いや、眠る気さえないのは私だけらしい。  そういえば、あの“伊予の介の女”が居るのはここから北側の襖(ふすま)の辺りではないか。  好奇心が沸き上がり、私は忍び足で襖の前まで迫ると、聞き耳を立てた。
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