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おそらくは先程の”小君“と呼ばれていた少年であろう。襖の向こうで若々しい声がした。
「姉上様。どちらにいらっしゃいます?」
すると、女の声が返ってきた。
「ここにおりますよ。お客人はもう御休みになられたのかしら?どんなに近い場所かと思って気を揉んだけれど、結構離れているようでほっとしたわ…」
ほっとするのはまだ早い、と私は一人、心の内で女に告げる。離れてなんかいやしない。私と女を隔てているのは、この薄い襖たった一枚だ。
「源氏の君なら、廂(ひさし)の間で御休みになられましたよ。噂に高い、そのお姿を間近で拝見しましたけれど、それはもう、この世の人とは思えない程、神々しいまでに美しいお方で、びっくりしてしまいました」
と、小君は声をひそめて言う。
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