第7章 空蝉の人

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「中将の君はどこ?なんだか側に人の気配がしないので恐いわ」  くぐもった声を一層低めて、女が訊ねると、幾分遠い所から声が返ってきた。 「中将の君なら、下屋にお湯を使いに参っております。『すぐに戻る』との事でした」  声の距離からして、女房連中は母屋より一段下がった離れの廂の間に眠っているらしい。 「…そう」  とだけ、心細げに答えて、女は黙った。
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