第7章 空蝉の人

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 夏の夜はまるで夢のように、あまりにも短い。  朝を告げる鶏の声が、御簾越しにけたたましい程に響く。  外ではすでに、供の男共が起き出して 「あぁ、ついつい寝過ごしてしまった。早く御車を出す支度をせねば」 「はいはい。今、すぐに」  などと、あくびを噛み殺しながら言い合っている声が聞こえる。  どうやら、紀伊の守も外に出ているようだ。  あの、一度聞いたら忘れられない野太いが弱々しいような妙な声音で 「女の方違えでもないのですし、こんなに明け方からお起こししたら無礼にあたるやもしれませんし、急いで帰らずともよいではありませぬか」  などと、供の誰かに告げているのが聞こえる。
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