第7章 空蝉の人

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 私ははだけた着物の前を合わせて、軽く目をこすりながら、頭の中で、もうこの屋敷に来る事も一生無いのかもしれないな、などと冷静に考えていた。  隣で未だ涙で頬を濡らしている女人を、ちらと一瞥し、  今後、この人と、どのように文のやり取りを交わせばよいのやら…と思った。かりそめの一夜とはいえ、情を交わした女だ。放っておく訳にもいくまい。  かと言って、本心を言ってしまえば、そこまで心惹かれて愛した女という訳でもないし…。  涙を流す女の姿をこうして間近で見ていると哀れで胸も痛くなるが、面倒だなという思いも同時に私の胸に沸き上がっていた。
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