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それまで気配のみだった、空気が大きく揺らぎ、切り戸の錠が外れた。小少将は、勢いにまかせ切り戸を開く。
しかし、そこに人の姿はなく、弘機殿の女御の局の御簾の内で大きく影が揺らめいた。
「これに懲りたならもう二度と、帝の元へ上がるでないぞ。泥棒猫め。次は無いと思え…」
人の声とは思えぬ、野太く低い、獣の唸りのような声音であった。
「帝のお召しを断れるとお思いかッ!?」
負けじと言い返した小少将の背後で他の女房達の悲鳴が響いた。
「桐壺様っ!!お気を確かに!!桐壺の更衣様っ!!」
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