第1章 母

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 私の母は、桐壺の更衣と呼ばれていた。私の祖父にあたる権大納言(ごんだいなごん)の父を失い、後ろだてのないまま、後宮の妃の中でも最低位の更衣として、入内(じゅだい)した母だったが、優しく儚げで可憐な美貌と穏やかで上品な性格から、帝に愛されるようになる。  母が住まいとし、名の由来にもなった桐壺は、帝が普段生活をする 清涼殿(せいりょうでん)から、最も遠く離れた、陽当たりの悪い場所にあった。庭に、桐の花が植えられている事から桐壺という名になったそうで、他にも庭に植えている花にちなんだ名の部屋名が、後宮には幾つもあった。梅壺、梨壺…そして、後に私が、幼少期のほとんどの時間を過ごす事となる藤壺…。        
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