第2章 命の光

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 宮中を退出する日。今にも消え入りそうな母は、帝が特別に用意した輦車(てぐるま)に乗り込む間際まで、帝と私の身を案じていた。  何よりも自分の事を案じるべきなのに、最愛の夫と息子の事ばかりを案じていた。 「何も心配する事はない。それより今はご自分の体の事だけを考えて、早く良くなって、再び宮中で、その美しく元気な姿を見せて下さい…。それが私と二の皇子の一番の願いです…」  折れそうな程か細い桐壺の更衣の肩を抱きながら、帝は止めどない涙を流した。桐壺の更衣は帝に答えるように笑みを浮かべて、気力を振り絞り、告げた。 「限りとて 別るる道の悲しきに   いかまほしきは 命なりけり」 (今はもうこの世の限りとなりました。貴方と別れて一人旅立つ死出の道は寂しく もっと永らえ 命の限り生きていたいと思うのに)
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