第2章 命の光

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「必ず…必ず戻ってくるのですよ。私と貴女は、比翼の鳥、連理の枝。そう誓いあったではありませんか。貴女が居なくなれば私も生きてはいられません。桐壺よ」  帝の胸は哀しみと不安で塞がり、更衣が退出した後も、一睡もせずに夜を明かしかねていた。  気がかりで堪らず、更衣の実家に使いを送り、深い溜め息を洩らす。   幼い私はというと、そんな父の様子を隣で見つめながら、何故、母が一人、輦車で出掛けたのかとか、父帝が苦しげになさっているのはどこか怪我でもなさったのか、とかそんな事を考えていた。  「若宮、もう夜も遅うございます。さ、ご寝所でおやすみなさいませ」  女房に促され、私は一人、寝所に向かう。何も知らずに。母の帰還を信じて。  何も知らずに…。今、母の命の光が静かに消えようとしている事すら分からずに。  母は死んだ。夜闇が明けるのを待たずに…。その瞳に朝焼けを映す事なく、静かにひっそりと、永遠の眠りについた。  儚いが故に美しかった彼女の、命の光はもう潰えたのだ。
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