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祖母の屋敷は、ただでさえうら寂しく人少なかったが、私の母が死に、それを受け入れられぬ祖母の悲しみにより、屋敷全体が湿っぽい空気で満たされていた。
帝は度々、私を早く御所に、という文を送ってきて下さったが、祖母が頑として首を縦に振らなかった。
いや、帝の文が届く度、不敬ながらも、祖母は忌々しそうな顔をして、キッと目を釣り上げるのだった。
「わたくしの娘をあんな酷い目に合わせた鬼達のいる宮中に、誰がかわいい孫を進んで差し出すというのだろうか。いくら帝の仰せなれども受け入れる訳には参りませぬ」
祖母は、はっきりとは口にしなかったが、帝を。宮中を。後宮の妃達を、全て憎んでいた。
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