第3章 藤壺

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 内心、私は早く父帝の待つ宮廷へ戻りたかった。  まだ幼い私にとって、祖母の屋敷は陰鬱で退屈過ぎたのだ。  祖母は毎日よく飽きないものだと呆れる程、嘆き暮らしていたし、仕えている女房達も皆、年増で、祖母と同じように暗く沈みきっていたし、私には遊び相手もなく、する事といえば、毎日、庭の散策と、楽しみといえば、女房がくれる菓子くらいだった。  早く父帝の元へ帰りたい。そう思っていても、それを決して口に出してはならないと、幼いながらも私は察していたし、私が居なくなってしまえば、とうとう独りぼっちになってしまう祖母の事を思うと、私はいたたまれない気持ちになった。  
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