第3章 藤壺

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 だが、誤算が生じる。桐壺はいくら寵愛を独占しようが身分は卑しい更衣。そして、帝には既に、時の権力者である右大臣の娘・弘機殿の女御と、一の皇子がいた。  世間知らずな祖母は、それを知らなかったのだろう。  それに、自らの娘の気質まで、知らずにいた。  いくら弘機殿の女御らの妬み嫉みに合おうと、桐壺の更衣自身がしたたかで強い精神力の持ち主だったならば、このような悲劇を招かずに済んだであろう。  だが、私の母は元来、おとなしく、人の争いに揉まれる事を苦手としていた。私の祖母は、桐壺の母でありながら、娘の気質を見抜く事すら出来ていなかったのだ。
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