第3章 藤壺

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 一方、私のいない宮中で、帝は心痛収まらぬ様子であられた。  私の事が気掛かりで、帝は、ゆげいの命婦を、私のいる祖母の屋敷に何度か遣わされたが、祖母は拒絶の意しか示さない。  日々は儚く過ぎて行った。帝は桐壺の更衣への恋慕を棄てきれぬまま、どうしようもない悲しみの深淵にさ迷い、後宮の妃達との夜のお召しは、更衣の生前以上にぱたりと途絶え、ただ涙に袖を濡らし、夜も朝も分からぬように嘆いた。  そんな帝を見るにつけ、『おいたわしや』と、大概の人は涙した。時の帝ともあろう人が、死別した愛しい女を想い涙する様子に、皆、胸を打たれたのであろう。  しかし、非情な人間もいた。弘機殿の女御である。
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