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一の皇子が正式に東宮になり、弘機殿の女御を擁する右大臣一族の権勢はますます強くなった。
弘機殿の女御は、胸を撫で下ろされ、
「一時は、一の皇子の座も危ういと心配しましたが、杞憂に過ぎませんでした。考えてみれば、あの卑しい桐壺の女が生んだ皇子が東宮になれるはずもない。いくら寵愛深かろうと所詮、卑しい者は卑しいままなのじゃ」
と高笑いしたとか。
その頃、私といえば、相も変わらず祖母の屋敷で退屈な日々を過ごしていた。
「なんと!やはり東宮は、一の皇子様に…」
宮中からの知らせを受けた祖母は、わなわなと身を震わせ、その場にへなへなと崩れ落ちると、呆けたように、視線を虚空にさまよわせた。
「おばあ様、いかが遊ばされたのですか?」
四歳のあどけない私は、呆然としている祖母の顔を不思議そうに眺めた。祖母は、私に視線を移し、じっと凝視したあと、いきなり目を見開きぽろぽろと涙を溢した。
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