第3章 藤壺

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 私は祖母のそのあまりにも異様な泣き顔に恐怖し、身動ぎも出来ず、言葉さえ失い、立ち尽くした。 「いやじゃ…いやじゃ…いやじゃ…いやじゃ…あってはならぬ。あってはならぬ。…あぁあああ」  乱心した祖母は、髪を振り乱し、叫んだ。騒ぎを聞き付けた女房達が慌てて駆け付け、祖母の身を取り押さえる。 「いかがなさいました!?北の方様(※屋敷の女主人。または屋敷の主の妻の意)!しっかりなさいませ」  私は呆然とその光景を見つめていた。祖母はおかしくなったのだ。頭の中で冷静にそう感じながら。人が絶望するとこうなるのだな、とやけに冷めた感覚で、自らの祖母が狂う様を見つめていた。
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