第3章 藤壺

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 その日を境に、祖母は病床につき、しばらくして亡くなった。  祖母を失い、私はとうとう独りぼっちになったと知った。  祖母が死んだ悲しみよりも、これから私は一人で生きていかなければならぬのだ、という心細い思いで、私は泣いた。  この時の私の気持ちを、他人が全て知ったら、「なんて冷酷な子だろう」と思うに違いない。  私自身でも私の残酷さ、冷酷さを嘲笑った。  祖母が死んだというのに、祖母の死よりも自らの行く末の不安で涙する孫、など聞いたこともない。  実際、祖母が死んだ事に対しちっとも悲しくなく、いや、何の感情さえも沸き起こらなかった。  その頃から既に、私は”自分自身が一番大切な“人間だった。
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