第1章 母

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 弘機殿の女御は、何かにつけて母を敵視し、虐め抜いた。  ある日の朝、渡り廊下で、母・桐壺の更衣と、弘機殿の女御が、対峙した。母は父帝の元から、自室の桐壺へ戻る最中であり、弘機殿の女御は、逆に帝の元へ行く最中の事だった。    日は既に高く昇っていたのに、今更、帝の元から部屋に戻る母を、弘機殿の女御は忌々しげに睨み据え、 「これほど、日が高く昇っているのに、今からお帰りとは、なんという恥さらしな」  となじった。後宮にせよ、貴族にせよ、日が昇る前の明け方のまだ薄暗い時に想い人の元から帰るのが、男女の契りの礼儀とされていたので、弘機殿はそこをつついたのだ。 母は、その言葉の棘に刺され、うつむき 「帝が、どうしてもと仰られたので…」  と、答えた。その答えにムッとした弘機殿は、手にした扇で、母の手をピシャッと叩いた。
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