第1章

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『見えすぎる』ということは良くないことだ。 それが異常だということを知らなかった。 世の中何が普通で、何が普通じゃないのか――それは、俺が小学生のときにやっと理解したことだった。 俺は、小学生の時、母と行ったスーパーマーケットからの帰り道、山の天辺のあたりのカラスの数を数えていた。 母親にあの辺に何羽カラスが見えるとか、そんなことを言っていたら 「うそをつくのはいけないことなのよ」 としかられた。 それから、俺は誰にも見えすぎることを言わないようにしてきた。 学校であった視力検査の時も、ホントは一番下のところまで見えたのだけれども、わざと嘘をついて、視力を下げたりもした。 一度ばれそうになったときもあったのだけれども、今日は調子が良かった、とか、あてずっぽうでやったら当たった、だとかいったらごまかせた。 何もかも普通が一番なのである。 それを超えてしまうと人間というものは大抵それを排除しようとする。 普通じゃないというのは、普通の人から見ればとても気持ちの悪いことなのだ。 俺、早坂浩二はそうして普通のふりをして生きてきた。
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