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「そうよ、ここは由良君が先生をうまく丸め込んで作られた部屋だから由良君はもちろん普通の部屋に住んでる。ここは開けっ放しだから暇なら3冊ぐらい借りていくといいわ。」
「亜紀さんは何を読んでいるのですか。」
「私はうー・・・む、夏目漱石ですな。」
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
「どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。」
亜紀さんは、「吾輩は猫である」の冒頭を読み出した。それはとても綺麗な声で特殊な聴き心地があった。
こんな所にいるのは勿体無いくらいだ。ココの子供は未来の可能性まで摘み取られている。
俺にしても夢があるわけではないが、幼少時に近所のおばさんに火を付けられそうにならなければ、もっと自由な生活ができただろう。
でも、正当防衛だとしても、俺も能力でおばさんを燃やしてしまったんだ・・・。
「亜紀さんはどうして孵化するさなぎが見えたりするんですか?」
ときいてしまった。
「昔から見えてたの・・。さなぎは黒くどす黒い色をしていて、人が抱えてきた痛みのようなそういうものがさなぎとして溜まっていく。そんな感じだった。でも早坂君のさなぎは一度閉じてしまってて、そのまま動かず何年も来たみたいね。ここにきて戦う意思がうまれてまた開いてしまった。」
車から出た火も影響して心があの燃やされる瞬間を思い出した。
忘れていれば何が変わったのだろう。
「亜紀さん、俺、部屋に帰ります。」
「うん、じゃあまたね。」
僕は由良図書館からでて、職員室まで行った。
職員室は校舎の一番下だ。広瀬に教えてもらった知識を活かそうとする。
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